モーハウス授乳服対談 株式会社和える 矢島里佳さん

 

撮影 河合蘭

今回は、『先人の智慧(ちえ)を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと』を目指し、次世代に伝統をつなげる仕組みを創出するために、0歳からの伝統産業の日用品販売を始め、講演、体験イベントや空間プロデュースなど多岐にわたり、日本の伝統を伝える活動をしている会社、株式会社和えるの代表取締役 矢島里佳さんと対談を行いました。

 

矢島 里佳(Rika Yajima)

1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時の2011年3月、株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。事業拠点は東京「aeru meguro」、京都「aeru gojo」、秋田「aeru satoyama」の3拠点。
現在は、事業承継等を応援する、リブランディング事業を行い、地域の大切な地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。日本の伝統を通じて、ウェルビーイングな生きると働くを実現する、講演会やワークショップも展開中。その他、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を創造。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集される。

撮影 河合蘭

 

生後3カ月から出張の子育て生活

光畑 ご出産おめでとうございます。お子さんは今どのくらいに?

矢島 0歳8か月です。実は、息子を連れての初出張が北海道の網走で。乗継ぎで、飛行機に4回乗りました。

光畑 それって、どきどきしませんでした? 子連れで大丈夫かな、って。

矢島 ?

光畑 普通はお母さんって、赤ちゃんが周りに迷惑かけたらどうしよう、赤ちゃんに何かあったらどうしようって…

矢島 そうなのですね。

光畑 よく、「子育てに不寛容な社会」って言われますよね。だから、お母さんがなかなか出かけられないっていう傾向はあるんですよね。多くの人からしたら、衝撃だと思いますよ。子連れで、ぽーんと網走まで行っちゃうなんて。

矢島 首がすわる頃には、息子と一緒に出張へ行こうと思っていたのですよ。空港までは、子育てタクシーを活用し、空港ではCAさんが手伝ってくださり、現地で社員と合流。講演先でも主催の方がとても良くしてくださって。そうなることがわかっていたわけではないのですが、何とかなるかな、と行ってみると、社会の皆さんがとてもやさしくて、何の問題もありませんでした。
「日本は、赤ちゃんに冷たい」と、聞いていましたが、前評判より、社会はやさしいなと思いました(笑)。

光畑 (笑)飛行機はどうでした? 飛行機に乗ると、赤ちゃんが泣き出した時に逃げ場がないじゃないですか。一般的には、「どうしよう」、「ごめんなさい」って言い続けですよ。

矢島 私の場合は、モーハウスさんの授乳服を着ていたので、飛行機に乗ってまず授乳をしたら、息子がころっ、と寝て。着陸するまで息子はずっと寝ていました。

光畑 普段、CAさん苦労されてると思いますからね。気圧の変化もあって、離着陸では泣く子が多いから。

矢島 性格もあると思うのですが、息子の場合、その後も何度か飛行機に乗っているのですが、なぜか泣かないんですよね。

光畑 安心しているんでしょうね。

矢島 そうかもしれませんね、私が全く心配していないから、その精神状態が伝わっているのかもしれません。どこに行っても安心している感じはありますね。持って生まれた性質もあると思うので一概には言えませんが、「情緒が母子ともに安定していますね」と、生まれたばかりの頃、助産師さんたちにもよく言われました。「妊娠中に安定した精神状態を保っていると、お子さんも安定するのですよ」、とも言われました。私は周囲の人にも言われるのですが、出産前と後とあまり変わらず、基本的にはご機嫌に過ごしています。

光畑 そのために妊娠中に意識したことってありますか

矢島 ストレスを貯めないことでしょうか。もともと、何が起きても、ストレスになる前に極力解決をするようにしていて。ご機嫌に生きるスキルを身につけて妊娠出産を迎えると、いい意味であまり変わらないでいられるのかもしれません。

 
 

撮影 河合蘭

 
 

「お母さん」の呪縛にはまらないためには

光畑 私は、里佳さんを大学生だった頃から知っているわけだけど、こうして見ていても、お母さんになった感がないというか。

矢島 確かに私、お母さんになったと全く思っていませんでした(笑)。

光畑 もちろん、さっきのおっぱいをあげている姿なんて、まさにお母さんなんだけど。でも多くの方がイメージするような、「今までの自分を捨ててお母さんになった」という感がない。里佳さんを見ていて思うのは、変わらず里佳さんであるところが素敵だなと。

矢島 わぁー嬉しい!ありがとうございます。私自身も、出産前も後も矢島里佳であることは変わらない感覚でした。息子にとってはお母さんだと思いますが、私にとって私はお母さんではないから、自分から「お母さん」と意識する必要はないと思っています。意識の中で、誰かのお母さんになった気持ちはみじんもないというか。それが心身ともに無理がなくて、ヘルシーな感じなのかもしれないです。

光畑 もちろん、母になった自分もすごく大事。だけど、それは今までの自分の土台にプラスされるところですからね。

矢島 そうですね、役割は拡張するけれど、自分の本質は変わらない。いろんな矢島里佳がいる中の、お母さんの矢島里佳がいて、その本質は変わらない。

光畑 そこが、揺らがないでいられる理由なのかな、って思いましたね。

矢島 はい、「お母さんだから〇〇しなきゃ」という思いが、特にないのです。

光畑 ですよね。でも一般には、そういう呪縛が世の中にはあふれているから、子育てがつらくなる。

矢島 そうみたいです。うちの会社にもちょうど育休中の社員がいて、まさに「お母さんにならないと」と、苦しくなっていたそうです。例えば、朝起きるのが苦手なのに、お母さんだから子どもより先に起きなければならないと、気が付かないうちに、本来の自分ではなくなっていた。苦しかったのは、いいお母さんを演じようと必死になっていたからだと、先日会話の中でわかったのです。ああ、やっぱり社会的な課題なのだなと、光畑さんのお話からわかりました。

光畑 ご本人が、一生懸命母親役を務めようとするがゆえの苦しさは、多くの女性にあると思いますね。その社員の方も、気が付いて良かった。

矢島 解き放たれて、ありのままの自分で良くて、お子さんは、頑張っているお母さんを求めていないよ、と話しました。

光畑 そうそう、まさにその通り。

矢島 笑顔でいるだけで子どもは嬉しいから、必死になっていいお母さんでいるよりも、笑顔でいてあげてねって。

光畑 里佳さんだってまだ8か月のお子さんのママなのに、もうベテランの域の発言ですね。ほんとその通りですよ。そしたら何て?

矢島 目からウロコという感じでした。産後どんどん、視野が狭くなったと言っていました。

光畑 多くの女性が、そうなってしまうんですよ。

矢島 家族からしか、「ありがとう」って言ってもらえない、とも話していました。

光畑 うっかりすると、家族からも言われなかったりするし。

矢島 社会の中で生きている、一人の女性であることを見失っていたとも。

光畑 そうなんですよ。どこまで行っても人は社会的な生き物だし、子どもがいるからこそ、 よけいに社会的なつながりは大事なのに、それを見失ってしまう。

矢島 そうですよね。私、病院で出産した時はコロナ禍だったので、誰も来られないまま、5日間病院で隔離状態でした。

光畑 大変でしたね…。どんな気持ちでした?

矢島 早く出たくてしょうがなかったですね。退院後に、産後ケア施設に1週間くらいお世話になったのですが、それがとても良くて、24時間体制でプロに対応してもらえる。ご飯は、朝昼晩全部出してくださり、家族みんなの洗濯もしてくださって、夫も一緒に過ごして産後ケア施設から出勤していました。夫と一緒に沐浴の仕方やオムツの替え方などを教えてもらい、3人で生きるために必要な技術を、プロから伝授してもらえるのがすごく良かったです。本当に出産直後から、人に頼り続けています。さき程の社員は、「この子を守るのは自分しかいない!」と思ってしまった、とも話していました。

光畑 そこは本当に課題ですね。実際に、赤ちゃんと一緒の生活、どんな風に暮らせばいいか、ということは、病院だけで教えるのは難しいんです。しかも家に帰っても情報がインターネットで、何が正解かわからない。それが、「この子を守るのは自分しかいない」ってお母さんスイッチオンにつながる。過剰な責任感ですね。子どものために親が我慢しても、子どもは喜ばないですよ。

 
 

親が笑顔でごきげんであること

矢島 私の母がリトピュア式というベビーリトミックの創設者なのですが、母は、まず親が笑顔でないと子どもは幸せじゃないと、30年前から提唱し続けているのです。私は「親が笑顔であることが一番!」という考えの元で育っているので、ご機嫌な大人を見て育てば、子どもは幸せということを大切に、息子と暮らしています。

光畑 全然泣かないで、落ち着いてますよね。場所見知りも人見知りもなさそう。

矢島 そうですね、いろんな人に息子を抱っこしてもらうことを、大事にしているからかもしれません。生後3ヶ月で人見知りがあったのですが、すぐに終わりましたね。出張先のカフェでご飯を食べていると、隣のおじさんが「こっちに来る?」と言ってくださり、私も「お願いします」と、抱っこしてもらいました。

光畑 あー、同じだ。私たちの会社(モーハウス)は子連れ出勤をやってるわけですけど、スタッフが、電車でよく子どもに声をかけられるんだそうです。世間では、今の社会は子どもに冷たいって言うのに、スタッフの話を聞くと全然違う。これって、たぶん親子が周りをシャットアウトしてないということなんだろうなと。

矢島 そうなんです! 親力だなと。

光畑 そう! そう思います。

矢島 私、息子にいつも話しかけているんですよ。「今から電車乗るよ、あと◯駅で降りるからね」とか。泣いてるときも「そっか、新幹線ずっと乗ってて飽きちゃったかな」とか。これ実は、息子への語り掛けと同時に、周囲への実況アナウンスにもなっているのです。赤ちゃんがただ泣いていたら、イライラされてしまう方もいらっしゃると思うのですが、息子の泣き声を翻訳して実況すると、「そういう状況なのか」と、人によっては話しかけてくださり、一緒にあやしてくださいます。私が無言で周囲をシャットアウトしていたら、周りの方は話しかけにくいですから、結果として冷たい対応をせざるを得ないですよね。いかに親が社会とコミュニケーションを取るかが重要だと思うのです。

光畑 本来、みんなやさしいんだと思うんですよ。でも、特に日本人はシャイでもあるし、個人の線引きがあるから、簡単には話しかけられない。声をかけると迷惑がられるかなとか、どうやって手助けすればいいかな、とか、皆いろいろ考えるわけですよね。そこに、まず、手を出して下さるの歓迎です、今こんな状況なんですよ、と、お母さんの側からコミュニケーションをとれば、皆が手助けしやすくなりますよね。

矢島 やっぱりそうですよね。よかったぁ。

光畑 世の中子連れに冷たいって言われるけど、まずお母さんからボール投げてますかって。

矢島 そうですね。実は、こちらがボールを持っているのですよね。

光畑 キャッチボールが始まらないですから。あともう一つ言えば、お子さん自身も、気持ちが開いているように見えます。これはどうしてなんでしょう?

矢島 うーん、親が社会に開いてる。その背中を見ているのだと思うのですよね。

光畑 モーハウスのスタッフたちの場合、外部の方がいらしたときなどに、子どもの方から、初対面の男性のところに、抱っこ~って手を差し伸べることがあるんですよ。そんなことって、普通の赤ちゃんはしない。その男性も、そんなことは初めてだから悪い気はしないで、喜んで抱っこしてくださって。こういうことがあれば、世の中子どもにやさしくなるループが生まれるだろうな、と、そんな空気を感じますね。

矢島 親が心理的に孤立したら子どもも孤立するし、親が社会と繋がっていたらそれが当たり前になるので。当たり前のことをやっているだけで、何も教えていないけれど、自然と学習していますよね。この間も食事処で、知らない方が、お座敷席で隣にいらして、「お母さんがご飯を食べている間、赤ちゃんと遊んでいてあげるから、食べちゃいなさいよ。」とおっしゃってくださり、お願いしますと預けました。息子は、私がご飯を食べている間、その家の孫になっていました(笑)。

光畑 素晴らしい。もしかして、生まれてから抱っこしてくれた人の数、すでに100人くらいいるんじゃないのかしら(笑)

矢島 はい、超えていますね(笑)

光畑 それが彼のスキルになっていますよね。抱っこする人にとってもすごくいい機会になっている。

矢島 みなさん、赤ちゃんを抱っこすると幸せそうな顔をするんですよ。社会に幸せをおすそ分けしているなと感じます。

光畑 素敵なサイクルですよね。

 
 

「和える」のこと

光畑 お仕事のことも伺いたいな。和えるのことを聞かせてください。学生の時に起業したんですよね。

矢島 はい、日本の伝統を次世代につなぐというのが、大学4年生のときに創業した和えるの原点の想いです。私が育った地域は千葉のベッドタウン、新興住宅地でした。新たに文化が生まれるエリアでしたので、伝統にあこがれるところがあったのと、幼稚園の時に陶芸の時間があって印象に残っていたのですね。それで、中学生の時に茶華道部に入り、日本の伝統に触れ始めました。
学生時代に、ジャーナリストを目指して、フリーのライターとしてJTBさんの会報誌で、日本の伝統の職人さんを取材し始めたのです。いろんな職人さんのお話を伺う中で、とても魅力的なのに、次の世代になぜ伝統が伝わらないのかということに興味が湧きました。

光畑 そうした経験がベースになってるんですね。

矢島 はい、それで、よく考えてみたら、自分の国の文化の物を使うという経験が、ほとんどないまま大人になっていることに気づいたのです。例えば急須だって、ただ使えるだけではなくて、そこに美しさがあって。暮らしの中で美意識って育まれていくものだなと感じたのですよね。

光畑 伝統が消えていっている危機感は私もあります。私の実家は100年近く続く食器屋なんです。かつては食器は、気に入ったものを大切に使う文化だったのが、今は、使えればいいから百均で買うという感覚になっているそうです。

矢島 そうですよね。赤ちゃんのときから伝統産業に触れて、暮らしの中で伝統を生かすことにつながっていくといいなと思い、和えるを始めたのです。

光畑 そこからスタートして、私の翌年でしたっけ?APEC BEST AWARDにも、日本代表で参加して大賞を受賞していましたよね。どんどん活動が広がって、今はさらにいろんな展開をしてらっしゃる。いくつか紹介してもらっていいですか?

矢島 はい、たとえば、“aeru room”という事業を行っています。和えるでホテルや旅館などのお部屋をプロデュースさせていただき、伝統に囲まれた部屋を作っています。「伝統と共に暮らすってどんな感覚なのだろうか」と、実際に疑似体験していただき、日常にも取り入れていただくきっかけになったら嬉しいなと。

光畑 すごく共感します。見るだけではなくて、使ってこそ、体験してこそ、納得できる感覚ってありますよね。生活の中に伝統が入っていく体験を、実際にできる場があるというのは、とてもいいですね。

矢島 そうなのです。お店で見ているだけでは体感しきれないのですよね。地域の伝統の魅力を感じながら、旅をより楽しんでただければという想いから、“aeru room”が誕生しました。

光畑 他にもありますか?

矢島 “aeru re-branding”事業もここ数年力を入れています。日本の伝統を本当の意味で次世代につなぐには、事業承継の課題にも着手する必要があります。地域企業さんの事業、ブランドの原点に立ち戻り、自分たちが何をしたくて始めたのか、その本質を問い直す。そして、ブレない軸を見つけ出し整えて、実際の業務やビジネスモデルを見直すことで、矛盾のない意思決定の早い組織作り、素直なブランド作りなどをお手伝いしています。

光畑 それも、とても大切なこと。広がってますね!

 
 

モーハウスのこと

矢島 モーハウスさんのことも、改めて教えてください。

光畑 私は妊娠中、絶対安静で一人ぼっちだったことがあるんですよ。携帯もダメ、友達と話すのもダメ、って。もう自分がどんなに危なくなってもいいから家に帰りたい、と思っていました。

矢島 それは、とても辛かったですね。

光畑 社会から切り離されることで、こんなに簡単に人は追いつめられるのか、と感じました。それで二人目の時は、1か月検診が終わったらすぐに電車に乗って出かけたのですが、途中で子どもがおなかをすかせて泣きだして。私のおっぱいを求めてるんだよねってわかるんだけど、授乳できないですよね。

矢島 そうですよね、その時は授乳服ではなかったのですよね。

光畑 そうなんです。でも、他に手段がないから、仕方なく胸を出して授乳したのですよ。もちろん恥ずかしいし、ああ周りのお母さんたちが子連れで出かけられないで孤立している理由はこれか、と思いました。

矢島 海外だと、普通に街中で気にせず、授乳している国もありますよね。文化の違いですが、日本では、街中での胸を出しての授乳はハードルが高いですよね。

光畑 日本って、そういう社会じゃないから、外での授乳がすごくハードルが高い。もちろん子育ての課題はたくさんあると思うけど、この問題だけでも 解決したいなと思ったんです。

矢島 本当に、光畑さんの実体験から生まれたのですね。

光畑 そうなのです。電車の中に授乳室を作るのは大変ですよね。それなら、授乳室を着てしまえないかなと考えたんですね。建築はコストがかかるけど、服なら女性が自分で手に入れられます。それで、粉ミルク1か月分の値段で手に入れられる授乳服を作り始めたんです。

矢島 授乳服って、当時はなかったのですか?

光畑 関西で作ってる人がいたので見に行ったり、海外から取り寄せたりもしました。でもいろいろ探したけど違うんですよね。授乳は確かにできる。でも隠す機能がない。それでは社会と繋がる道具にはならない。

矢島 確かに。社会と繋がるって大事なキーワードですよね。私は、モーハウスさんの授乳服のおかげで、外出先でも問題なく授乳できるので、息子と共にどこでも出かけられる、自分らしいご機嫌な人生を続けてられています。本当にありがとうございます。

光畑 授乳服をどんなふうに活用して下さってるのかしら。

矢島 出かける時、特に仕事で公の場に行くときは、モーハウスさんの授乳服を重宝しています。(赤ちゃんの泣き声)大丈夫~?おいで~(抱っこして授乳、ショップに来たスタッフとあいさつ)

光畑 あ、シャッターチャンス! 写真撮ってもいい?

矢島 はい、もちろん。もういつも、こんな感じですね。打合せしながら授乳したりとか。この服だと男性がいても授乳しているのが見えないので、ありがたいです。授乳カバーだと、逆に目立ってしまうので、この方がいいのです。

光畑 一瞬で赤ちゃんが、落ち着くのよね。

矢島 これが授乳服のすごさですよね。授乳中って、ワンピースが着られないんです。私はモーハウスさんのワンピースを特に愛用しています。講演のお仕事はあまりラフな服装では行けないので、フォーマルめなワンピースは助かります。授乳服がなかったら、母乳で子育てしながらお仕事するのはとても大変です。(この間ずっと授乳しながらお話)

 
 

サステナブルな子育て

光畑 ビジネスシーンに授乳服が役に立つって、新鮮! お仕事の関係で復帰を早くしなければならない方、すごく苦労してらっしゃるから。

矢島 何歳から子どもを預けるかは、いろんな事情がありますので、人によって考え方はそれぞれだと思います。正解はないと思うのですが、預けるタイミングに対して、自分自身で方針を決めて納得していることが一番大事だと思うのです。
私自身は、息子が自分で歩いて、ある程度自由に動けるようになる1歳半前後までは預けずに、仕事をしつつも自分で息子を見ているという方針で育んでいます。預けた後も、3歳までは基本的にはお昼過ぎまでの保育にして、息子との時間を大切にしようと思っています。三つ子の魂百まで、小さい時に愛着形成をしっかりすると、精神的に安定しやすく、結果的には精神的自立も早くなるのでお互いご機嫌だと考えています。一番身近な親が子どもにとっての安全基地になれれば、安心して自分の興味に素直にいろんなことに取り組めるようにもなると思います。

光畑 息子さんの、この落ち着いた感じは、お母さんをすごく信頼していることの現れなんでしょうね。

矢島  叶うなら、自分で歩いて友達と遊ぶようになるまでは、自分の手元で育てたいな、と生まれる前から思っていました。コロナ禍で、社会がオンラインの利活用を推し進めてくれたのは本当にありがたいなと思っています。あと、息子は母乳で育てているので、私の方も、いつでも授乳できないと乳腺炎になってしまうので、自然と母子というのはお互いに離れられない設計になってるんだなあ、よくできてるなあとも感じます。

光畑 サステナビリティって世の中で言われてますよね。自然の仕組みに従うことは、SDGsにつながると思うんです。でも今の社会の仕組みの難しさで、お子さんを預けないと仕事ができない。そのためにはミルクにしなくてはいけない。母乳を少しでも続けるために仕事中に搾乳して。赤ちゃんが飲めばすっと出る母乳も、何もない部屋では出づらい。

矢島 赤ちゃんがいないところで搾乳するというのは、精神的にも辛そうです。

光畑 赤ちゃんの写真を見ながら搾乳すると、いくらかスムーズだそうです。切ないですよね。

矢島 不自然な状態ですよね。お母さんは、とても辛いと思います。

光畑 出かけたり保育園に入るときに、出ている母乳をやめてミルクにしたり混合にする人もいます。

矢島 さまざまな事情があるので、必ずしも母乳である必要はないと思うのですが、WHOは2歳まで、母乳をあげることを推奨していますよね。

光畑 よく知ってますね!そう、推奨されてます。もちろんミルクで問題はないんだけど、まだ解明されていない母乳の成分もあるし、母体のメリットはたくさんあります。本当は母乳で育てられるのに、育てたいのに、社会の仕組みが理由であきらめなくて済む世の中であってほしいなと。

矢島 私自身、母乳へのこだわりはあまりなかったのです。けれど、ありがたいことに、たまたま母乳が出たので、母乳で子育てしてみたところ、実際に母乳はいいことがたくさんあると感じています。何よりも、子どもにとってもお母さんにとっても健康に良いですよね。産後の体の戻りも順調でしたし、乳がんになるリスクも低減させてくれますよね。また、息子の愛着形成の一つにもつながります。
あと、出かける際の荷物もいらないですし、作る時間や経済的な負担がないのもありがたいですね。

光畑 経済で言うと、ミルクで育てると年間20万円以上かかるそうです。その20万円で、授乳服と産後ケアに使っても。

矢島 母乳が叶う方は、お出かけは授乳服を着れば何の問題もないので、母乳育児、本当におすすめです。

光畑 あとね、実は母乳をあげると、お母さんもリラックスできるんですよ。

矢島 あ、確かに、私も寝ちゃいます。

光畑 でしょ? 母乳はお母さんもリラックスできる仕組みになっている。以前、実験したのですが、外でお母さんが授乳すると、ストレスが上がっちゃうんです。「見られたらどうしよう」とか「めんどう」という気持ちがあるんでしょうね。でも、授乳服を着ていると、ストレスが下がったのです。

矢島 確かに、私は外で授乳するとき、いつも授乳服を着ているので、ストレスに感じたことがないですね。

 
 

子連れ出張・子連れ出勤

矢島 和えるでも、子連れ出勤をしたり、子連れ出張をする社員もいます。

光畑 それは、取材させてもらわなくちゃ。私は、今、子連れ出勤の研究をしているのです。こんなことをしている人は他にいないので、日本唯一の研究者で(笑)。子連れ出張、出勤は実際のところどうですか?

矢島 子どもが社会を知るきっかけにもなりますし、働くってどういうことかを、小さい頃から感覚的に知る機会になっていると感じます。

光畑 そうなんですよね。子どもがいることで出かけにくいという我慢を解決したくて作った授乳服だけど、それを使ってモーハウスで実現した子連れ出勤を見たら、皆びっくりするんですね。このびっくりって、いわゆるアンコンシャスバイアスの変換だなと。これを見せていくことが若い人への刺激になるなと思って、これまで300人以上が子連れ出勤をしてきました。

矢島 そう考えると、私の世代が率先して 子どもを出張や仕事に連れて行き、迷惑をかけることなく、ちゃんとその仕事を終えられるという実績を作らないといけないですね。みんな迷惑どころか笑顔になってくれる。でもやっぱり、シチュエーションによっては、子どもが泣いたら迷惑になることもあると思うんです。私だと、出張には連れて行くけれど、私が講演の時間は預けるなど、その線引きは意識しています。子どもがいるから何でもありというのは違うと感じます。

光畑 それは、私もすごく意識しているポイントですね。子連れ出勤で皆さん驚かれるのは、赤ちゃんが落ち着いていること。世の中の人たちは「赤ちゃんは泣いて当たり前」と言って下さるし、もちろん寛大な姿勢はありがたいけど、赤ちゃんを機嫌よくさせることって、結局赤ちゃんにも周囲にもいいことなんじゃないかなと。そこは授乳や抱っこが大活躍ですよね。

矢島 私は基本的にベビーカーででかけるのですが、移動のお手伝いをしてくださる方や、息子に対して話しかけたり、微笑んでくださったりする方の存在は、とてもありがたいです。また子連れの人を見かけたら、心配りしてあげようと思ってくださるように、ありがたいという気持ちを必ずお伝えするように心がけています。

光畑 お母さんが大変なのは当たり前、子どもは泣くのが仕事…、そんな言葉に巻き込まれてしまうと、もっと苦しくなってしまう。赤ちゃんが本来、持っている力って実はすごいんだよ、ということを伝えていきたいと思ってます。なかなか伝わらないんですけどね。

矢島 現役ベビーのお母さんとして、私も伝えていこうかな。

光畑 もともとジャーナリストを目指していたってことですが、今、子連れで出張したり、打合せで授乳している姿、それ一つ一つが発信になってるかなと思いますよ。

矢島 嬉しいです。

光畑 それにしても、こうして1時間お話しして、考えていることが本当に一緒でしたね。

矢島 はい、とても楽しかったです。

光畑 最後に、お母さんたちに何か一言。

矢島 お母さんが笑顔なら、子どもも笑顔。だからこそ、まずは自分を大切に、ご機嫌にしてあげてください!

光畑 ああ、本当に大事。私たちのキャッチフレーズが「子育ては“我がまま”でいい」っていうんです。“我がまま”っていうのは、自分勝手という意味じゃなくて…

矢島 「我がまま」と書くんですよね。

光畑 そう、自分らしくという意味です!

矢島 私なりに息子と8か月過ごして、子育てに対する哲学みたいなものを育んできたのですが、今日、光畑さんとお話しして、このまままっすぐ進もう!と、改めて確かめられた感覚で、すごく嬉しいです。どうもありがとうございました!