モーハウス授乳服対談 株式会社和える 矢島里佳さん

 

撮影 河合蘭

今回は、『先人の智慧(ちえ)を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと』を目指し、次世代に伝統をつなげる仕組みを創出するために、0歳からの伝統産業の日用品販売を始め、講演、体験イベントや空間プロデュースなど多岐にわたり、日本の伝統を伝える活動をしている会社、株式会社和えるの代表取締役 矢島里佳さんと対談を行いました。

 

矢島 里佳(Rika Yajima)

1988年7月24日 東京都生まれ。
職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出し、オンライン直営店から始まる。2014年には事業拠点となる東京「aeru meguro」、2015年京都「aeru gojo」をオープン。「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて特集される。
日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”、日本の職人技で直す“aeru onaoshi”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。
著書に和える創業までの物語を綴った『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)など。

学歴

  • 2007年4月 慶應義塾大学法学部政治学科入学
  • 2011年3月 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
  • 2011年4月 慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程 社会イノベータコース入学
  • 2013年3月 慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程 社会イノベータコース修了

著書

  • 2014年『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)(詳しくはこちら
  • 2017年『やりがいから考える 自分らしい働き方』(キノブックス)(詳しくはこちら

撮影 河合蘭

 

生後3カ月から出張の子育て生活

光畑 ご出産おめでとうございます。お子さんは今どのくらいに?

矢島 0歳8か月です。実は、息子を連れての初出張が北海道の網走で。乗継ぎで、飛行機に4回乗りました。

光畑 それって、どきどきしませんでした? 子連れで大丈夫かな、って。

矢島 ?

光畑 普通はお母さんって、赤ちゃんが周りに迷惑かけたらどうしよう、赤ちゃんに何かあったらどうしようって…

矢島 そうなのですね。

光畑 よく、「子育てに不寛容な社会」って言われますよね。だから、お母さんがなかなか出かけられないっていう傾向はあるんですよね。多くの人からしたら、衝撃だと思いますよ。子連れで、ぽーんと網走まで行っちゃうなんて。

矢島 首がすわる頃には、息子と一緒に出張へ行こうと思っていたのですよ。空港までは、子育てタクシーを活用し、空港ではCAさんが手伝ってくださり、現地で社員と合流。講演先でも主催の方がとても良くしてくださって。そうなることがわかっていたわけではないのですが、何とかなるかな、と行ってみると、社会の皆さんがとてもやさしくて、何の問題もありませんでした。
「日本は、赤ちゃんに冷たい」と、聞いていましたが、前評判より、社会はやさしいなと思いました(笑)。

光畑 (笑)飛行機はどうでした? 飛行機に乗ると、赤ちゃんが泣き出した時に逃げ場がないじゃないですか。一般的には、「どうしよう」、「ごめんなさい」って言い続けですよ。

矢島 私の場合は、モーハウスさんの授乳服を着ていたので、飛行機に乗ってまず授乳をしたら、息子がころっ、と寝て。着陸するまで息子はずっと寝ていました。

光畑 普段、CAさん苦労されてると思いますからね。気圧の変化もあって、離着陸では泣く子が多いから。

矢島 性格もあると思うのですが、息子の場合、その後も何度か飛行機に乗っているのですが、なぜか泣かないんですよね。

光畑 安心しているんでしょうね。

矢島 そうかもしれませんね、私が全く心配していないから、その精神状態が伝わっているのかもしれません。どこに行っても安心している感じはありますね。持って生まれた性質もあると思うので一概には言えませんが、「情緒が母子ともに安定していますね」と、生まれたばかりの頃、助産師さんたちにもよく言われました。「妊娠中に安定した精神状態を保っていると、お子さんも安定するのですよ」、とも言われました。私は周囲の人にも言われるのですが、出産前と後とあまり変わらず、基本的にはご機嫌に過ごしています。

光畑 そのために妊娠中に意識したことってありますか

矢島 ストレスを貯めないことでしょうか。もともと、何が起きても、ストレスになる前に極力解決をするようにしていて。ご機嫌に生きるスキルを身につけて妊娠出産を迎えると、いい意味であまり変わらないでいられるのかもしれません。

 
 

撮影 河合蘭

 
 

「お母さん」の呪縛にはまらないためには

光畑 私は、里佳さんを大学生だった頃から知っているわけだけど、こうして見ていても、お母さんになった感がないというか。

矢島 確かに私、お母さんになったと全く思っていませんでした(笑)。

光畑 もちろん、さっきのおっぱいをあげている姿なんて、まさにお母さんなんだけど。でも多くの方がイメージするような、「今までの自分を捨ててお母さんになった」という感がない。里佳さんを見ていて思うのは、変わらず里佳さんであるところが素敵だなと。

矢島 わぁー嬉しい!ありがとうございます。私自身も、出産前も後も矢島里佳であることは変わらない感覚でした。息子にとってはお母さんだと思いますが、私にとって私はお母さんではないから、自分から「お母さん」と意識する必要はないと思っています。意識の中で、誰かのお母さんになった気持ちはみじんもないというか。それが心身ともに無理がなくて、ヘルシーな感じなのかもしれないです。

光畑 もちろん、母になった自分もすごく大事。だけど、それは今までの自分の土台にプラスされるところですからね。

矢島 そうですね、役割は拡張するけれど、自分の本質は変わらない。いろんな矢島里佳がいる中の、お母さんの矢島里佳がいて、その本質は変わらない。

光畑 そこが、揺らがないでいられる理由なのかな、って思いましたね。

矢島 はい、「お母さんだから〇〇しなきゃ」という思いが、特にないのです。

光畑 ですよね。でも一般には、そういう呪縛が世の中にはあふれているから、子育てがつらくなる。

矢島 そうみたいです。うちの会社にもちょうど育休中の社員がいて、まさに「お母さんにならないと」と、苦しくなっていたそうです。例えば、朝起きるのが苦手なのに、お母さんだから子どもより先に起きなければならないと、気が付かないうちに、本来の自分ではなくなっていた。苦しかったのは、いいお母さんを演じようと必死になっていたからだと、先日会話の中でわかったのです。ああ、やっぱり社会的な課題なのだなと、光畑さんのお話からわかりました。

光畑 ご本人が、一生懸命母親役を務めようとするがゆえの苦しさは、多くの女性にあると思いますね。その社員の方も、気が付いて良かった。

矢島 解き放たれて、ありのままの自分で良くて、お子さんは、頑張っているお母さんを求めていないよ、と話しました。

光畑 そうそう、まさにその通り。

矢島 笑顔でいるだけで子どもは嬉しいから、必死になっていいお母さんでいるよりも、笑顔でいてあげてねって。

光畑 里佳さんだってまだ8か月のお子さんのママなのに、もうベテランの域の発言ですね。ほんとその通りですよ。そしたら何て?

矢島 目からウロコという感じでした。産後どんどん、視野が狭くなったと言っていました。

光畑 多くの女性が、そうなってしまうんですよ。

矢島 家族からしか、「ありがとう」って言ってもらえない、とも話していました。

光畑 うっかりすると、家族からも言われなかったりするし。

矢島 社会の中で生きている、一人の女性であることを見失っていたとも。

光畑 そうなんですよ。どこまで行っても人は社会的な生き物だし、子どもがいるからこそ、 よけいに社会的なつながりは大事なのに、それを見失ってしまう。

矢島 そうですよね。私、病院で出産した時はコロナ禍だったので、誰も来られないまま、5日間病院で隔離状態でした。

光畑 大変でしたね…。どんな気持ちでした?

矢島 早く出たくてしょうがなかったですね。退院後に、産後ケア施設に1週間くらいお世話になったのですが、それがとても良くて、24時間体制でプロに対応してもらえる。ご飯は、朝昼晩全部出してくださり、家族みんなの洗濯もしてくださって、夫も一緒に過ごして産後ケア施設から出勤していました。夫と一緒に沐浴の仕方やオムツの替え方などを教えてもらい、3人で生きるために必要な技術を、プロから伝授してもらえるのがすごく良かったです。本当に出産直後から、人に頼り続けています。さき程の社員は、「この子を守るのは自分しかいない!」と思ってしまった、とも話していました。

光畑 そこは本当に課題ですね。実際に、赤ちゃんと一緒の生活、どんな風に暮らせばいいか、ということは、病院だけで教えるのは難しいんです。しかも家に帰っても情報がインターネットで、何が正解かわからない。それが、「この子を守るのは自分しかいない」ってお母さんスイッチオンにつながる。過剰な責任感ですね。子どものために親が我慢しても、子どもは喜ばないですよ。

 
 

撮影 河合蘭