茨城県潮来市

 水郷で知られる茨城県潮来市は、東京から高速バスで80分というアクセスの良さ(朝夕の高速バス運行は、なんと10分おき!)でIターン・Uターン世帯が増えています。
 潮来市がとくに力を入れている子育て応援事業では、2018年4月に子育て世代包括支援センターの設置と同時に、妊娠届出時に授乳服を贈る事業が始まりました。
 日頃から「子どもは市民の宝」とおっしゃる原 浩道市長と、授乳服を贈る事業の推進役をされた小沼市民福祉部長にお話を伺いました。

●授乳服のプレゼントは、地域づくり 

――潮来市で授乳服を贈ることになった経緯を教えてください。

原市長(以下、市長)  潮来市では、「妊娠期からの切れ目のない子育て支援」を掲げ、妊娠届時に授乳服、1歳健診のときに絵本(ブックスタート)、小学校入学時にランドセルを贈っています。
行方市などでの授乳服プレゼントの先行事例を見て優しい事業だと感じました。妊娠したことを共に喜び、パートナーやご家族と共に子育てができる環境をつくりたい、お母さんたちの外出支援の一助となってほしいという考えから導入しました。

小沼市民福祉部長(以下、市民福祉部長) 児童虐待の数値(厚労省2018年度)によると、虐待による死亡のなかで、出生後1カ月以内に実母によるものが最も多いという大変ショッキングなデータが挙がっています。母親の孤立、心身ともに病んでいる状況が浮き彫りになりました。
そこで、母親の精神的・身体的な健康を守るために、子育て世代包括支援センターでは、妊娠時から母親の心身面、パートナー、ご家族の状況などを細かくお聞きしながら、必要があれば福祉や医療と連携できる体制をつくりました。このヒアリング後に、授乳服のカタログをお渡ししています。

――切れ目ない支援のスタートに授乳服があるわけですね?

市民福祉部長 はい。妊娠期から授乳服を着ていただくことで、産後の生活をイメージでき、スムーズに産後の生活に移れるのではないでしょうか。
産後は、家にひきこもらず、授乳服を着て赤ちゃんと外に出ることで、地域で仲間づくりをして、相談できる人、手伝ってくれる人をたくさんつくってほしいと思います。

――授乳服を通して、どのようなまちづくりを考えていらっしゃいますか?

市長 子育ては本来、母親だけでするものではなく、パートナー、家族、ひいては地域みんなで支え合ってしていくものです。
地域に赤ちゃんが見える環境をつくることで、高齢者は元気がもらえ、赤ちゃんにとっても、お出かけして地域のさまざまな人たちに話しかけられることで、脳の発達にもよい影響があります。まちが活気づき、地域活性化、共生社会をつくりだすチャンスでもあります。お母さんの外出支援を通して、授乳服は地域づくりにもつながっています。

市民福祉部長 他の自治体同様に、潮来市も高齢者人口は急増しています。高齢者もサービスの受け手になるだけでなく、例えばファミリーサポートセンターの協力会員として地域の子育てを支える等の社会参加をしていくことで、生きがいにもつながるのではないでしょうか。

また、モーハウスさんの子連れ出勤を視察した際、赤ちゃんたちが静かだったことにとても驚きました。いつでも母乳がもらえる、欲求が満たされている安心感で赤ちゃんも落ち着いていると伺いました。
赤ちゃん期は、愛着形成にとても大事な時期です。共働きが増える社会において、企業の皆様にも、母子を早期に切り離さないために育児休暇取得や子連れ出勤などの働き方の工夫が進むようにお願いしたいと思っています。

●「子育て世帯が歓迎されている!」と感激

 潮来市で、授乳服を着て子育て中の角(すみ)春香さんにもお話を伺いました。かれんちゃん(8カ月)は、市長が「芸能人みたいだね」というほどニコニコと愛想のよい赤ちゃんです。

――授乳服のプレゼントがあると聞いたときは、どう思われましたか?

角(すみ)さん(以下、敬称略) 夫の仕事で転居してきたのですが、「子育て世帯が歓迎されている!」と思いました。また、授乳服のプレゼントがきっかけで、潮来市ではさまざまな子育て支援をしていることがわかり、ママセミナーなどにも参加するようになりました。

――授乳服を着てみて、いかがですか?

角(すみ) とくに、授乳用ブラジャーは締めつけがまったくなくてメチャクチャらくですね。授乳服は肌ざわりもよくて洗濯もしやすいですし、冬の寒い時期に服を着こんでいても、さっと授乳することができるので助かります。
潮来は車社会なので、車で移動することが多いのですが、狭い車中でもコンパクトに授乳できるのがいいですね。産後すぐから着ていますが、妊娠中から着ていればよかったと思いました。
※現在は、マタニティセミナーで妊娠期から使えることをお伝えしています。

――赤ちゃんとのお出かけは増えましたか?

角(すみ) はい。子育て広場に行ったり、子育て広場で出会ったママたちとランチに行ったりしています。子どもと二人でいる時間が長いので、ママ友とつながれる場があって、大人とおしゃべりできるのはうれしいですね。よく笑う子なので、外でもよく話しかけられます。授乳服がなければ、きっと家とスーパーの往復の毎日だったと思います。

――今までで一番遠いお出かけはどこですか?

 実家の名古屋に帰省したことですね。潮来から高速バスで東京駅まで行き、そこから新幹線で約2時間の長旅でしたが、泣いたらすぐ授乳できるという安心感がありました。
帰省の大移動を乗り切ったことは、大きな自信になりました。

――逃げ場のない高速バスは、かなりハイレベルのお出かけですね。赤ちゃんとのお出かけに自信がついたところで、行ってみたいところはありますか? 

角(すみ) 夫の実家が山口県なので、次は飛行機での帰省にもトライしたいですね(笑)

潮来市の授乳服を贈る事業は、地域だけでなく、さまざまな交通機関にも赤ちゃんが見える環境づくりにつながっています。赤ちゃん連れでも気軽に高速バスを利用できることで、今後、潮来市への移住がますます注目されそうです。