働く母乳対談:宋 美玄さん
子育ては「ゆるく、楽しく!」
宋 美玄(そん・みひょん)さんプロフィール
産婦人科専門医、性科学者、医学博士。1976年、兵庫県神戸市生まれ。産婦人科の臨床医を務める傍ら、テレビや雑誌などでセックスや女性の性、妊娠・出産などについての啓蒙活動を行っている。『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』(メタモル出版)等、著書多数。共著に『産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK』(メタモル出版)。4歳と0歳の2児の母。
今回の働く母乳対談は、特別企画。産婦人科医の宋 美玄さんをお迎えして、モーハウス青山ショップでの公開トークショーとなりました。
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2人目を産んで、もとが取れた!
光畑:第2子を2015年11月にご出産されたばかり。おめでとうございます!
宋 美玄さん(以下、宋):ありがとうございます。上の子は4歳になったところですが、1人目と2人目の授乳ライフはまったく違いますね。
光畑:どんなふうに違いますか?
宋:実は1人目のときに里帰り出産した病院は、母乳スパルタ病院でした(笑)。産後疲れて寝ているところに赤ちゃんのコットを持ってこられて、授乳姿勢も何も教えてくれずに「赤ちゃん泣いてますよ、授乳してください」と。まだ傷も痛むところを起き上がり、吸わせ方もわからないのですぐ乳首に水泡ができて、授乳のたびに針で突かれているような痛みに耐え…。そこまで頑張っても母乳は出なくて赤ちゃんの体重は減っていく一方。なのに、助産師さんからは「まだ、頑張れます!」と励まされて。
光畑:それは痛々しい…。まさに苦行のようなスタートだったのですね。
宋:『こんなに赤ちゃんを泣かせて、私はなんて悪いお母さんなのだろう…』と落ち込みましたね。退院指導のときも「家で母乳が足りなかったらどうしたらいいですか?」と質問すると、「何回も吸わせてください」の一点張り(笑)。私は、ミルクと混合の具体的な方法を教えて欲しかったのですが。ミルクを足すようになってから、遅れて母乳も出るようになり、1カ月くらい経つと母乳だけでも十分足りるようになりました。
光畑:私も第1子のときには、ミルクの足し方を教えてもらったことが役に立ちました。とくに初産婦の場合は、授乳が軌道に乗るまでが大変ですよね。とはいえ、私は第1子のときは母乳では育てられなかったのですが・・。
宋:たしかにその時期が一番つらかったですね。『身体は疲れているけど、精神は蝕まれていない!』と頑張っていましたが、SNSで友だちの赤ちゃんが大きく育っているのを見ただけで泣いたりしたことも。今思うと、完全におかしいですよね(笑)。
光畑:美玄さんにそんな時期があったとは意外です。初めてお会いしたときは、確か上のお子さんが2歳くらいで、エンジョイおっぱいライフのまっ最中でしたものね。
宋:はい、母乳が軌道に乗ってからは快適な授乳ライフを送り、3歳まで授乳していました。おっぱいがあると本当にらくで、出かけるときも吸わせていれば静かになるので、子連れで海外旅行も何度かしました。ところが、下の子を妊娠した途端、「(おっぱいが)マズイ!」と言いだして (笑)。おっぱいから離れていきました。
光畑:モーハウスのまわりにも長く授乳される方が多くて、子どもと「しゃべる授乳」ができるのも楽しいですね。私は新幹線内で授乳することも多かったのですが、シーンとした車内で「おっぱいちょうだい!!」と大きな声でねだられて恥ずかしい思いをしたことがあります(笑)。
宋:両方の乳首を刺激するとホルモンの影響で、よりスムーズに授乳できるということを2人目のときに知りました。なので、タンデム授乳(きょうだいで両方のおっぱいを飲む授乳スタイル)は、ぜひやってみたかったですね。試しに2人目の授乳中に、上の子にもう片方を吸わせてみたら吸い方がすっかり下手になっていて(笑)
光畑:一度授乳をやめると、母親のほうは授乳を再開できても、子どものほうが吸い方を忘れてしまっているということはよくありますね。
宋:授乳のとき、赤ちゃんはのどの奥まで乳首をくわえて、舌の付け根と上顎でしごくようにして吸うのですが、それがまったくできなくなります。吸ってくれたら、らくになるのに…(笑)。
光畑:たしかに。今回の授乳ライフははじめからとても楽しそうですね。
宋:どんなお産でも、産後はめちゃくちゃ疲れていますよね。1人目のつらい経験もあったので、バースプランに「産後はできるだけ身体を休ませてほしい」と要望を書いて、私は寝転がったままで授乳できる(添え乳)ように助産師さんに手伝ってもらいました。なので、今回、産後は本当にらくちんで、前回と比べるとまるでお花畑のよう(笑)
光畑:お母さんがらくに授乳できるように少し手を貸してもらうだけで、授乳のスタートはまったく違ってきますね。
宋:これで1人目の苦労が報われた!と思いました。1人目のときは、子育てを助けてくれる人脈も知識もなく、子育てしていくなかで光畑さんや母乳の活動をされている方たちとつながりができるようになりました。2人目は最初からどうすればいいかわかっているので、2人目を産んで、やっともとが取れた!と思いましたね(笑)。
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右でも左でもない「おっぱい中道」を目指す
光畑: そういえば、妊娠中に産婦人科医療を描いた話題のドラマ『コウノドリ』にも出演されましたね。
宋:切迫早産で入院中の妊婦役で(笑)。セリフも一言作っていただきました。
光畑:お腹のつめ物なしのリアルな妊婦さんでしたね(笑)。お一人目の子育て中も、診療のお仕事をされながら、岡山の大学院に新幹線で通い、テレビのコメンテーターの仕事もこなしと、大活躍されていらっしゃいました。大変だとは思うのですが、さらりと軽やかになさっているように見えます。その秘訣はなんでしょう?
宋:子育てをしていると、夜も仕事が入れづらいし、飲み会もそんなに行けないし…と不自由な時間も増えます。でも、産婦人科医という仕事柄、自分が出産・子育てすることで「視点」が一つ増えて、仕事のうえでもインスピレーションを得ることが多いですね。それを発信していきたいという気持ちが大きいですね。
光畑:出産と同時期に出版された『産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK』も、その発信の一つですね。
宋:はい。今まで産科医として妊娠からお産直後までのお母さんたちと関わってきましたが、正直言って母乳や育児のことはほとんど知らなかったのです。私自身も妊娠・出産までは、トラブルがあっても産科医の経験からすべて想定内でした。でも、母乳に関しては理想と現実のギャップを痛感しました。「お母さんたち、今までごめん!」という気持ちです。
光畑:そこで、母乳のことを猛勉強されたわけですね。
宋:母乳に関するさまざまな本を読みましたが、母乳についての医学的な事実を知りたいのに、「母乳は素晴らしい」とか、情報発信者の価値観が付加されている本が多くて。できるだけ中立な立場から、医学的な根拠を示しつつ、母乳でも粉ミルクでも混合でも、授乳中のお母さんにお伝えしたい情報を載せました。
光畑:母乳に対する両極端な意見を「おっぱい右翼」「おっぱい左翼」と例えていらっしゃるのが斬新です(笑)。
宋:おっぱい右翼は「母乳は素晴らしい、何がなんでもおっぱい」というおっぱい至上主義で、おっぱい左翼は「初乳だけあげたら、あとは粉ミルクでも一緒。母乳にこだわることには意味がない」という合理主義。医療者に多いタイプで、多くの母親が持っている「できれば母乳で」という感情を理解できず、情が通じにくい傾向があります(笑)。私は、右翼でも左翼でもない、おっぱい中道を目指しています。
光畑:合理的に考えたら、むしろ母乳のほうがらくじゃないかな。夜も赤ちゃんと同床で添え乳をすれば、布団から出て調乳して寝かしつける手間もないですし、お出かけの荷物も最低限で済みますよね。今日の美玄さんも、2カ月になる赤ちゃんと一緒に来てくださったとは思えないくらい、とても軽装で素敵です。
宋:赤ちゃん連れの外出でも、ベビーラップで赤ちゃんを抱っこして、ハンドタオルと紙オムツと袋さえあれば、何とかなりますからね。私は性格的にバッグの底のほうから荷物を探すのが苦手で、見つからないものは持ってないのと一緒かなと。病院の当直のときも、荷物は下着と靴下くらい。両手を丸めた中に収まるほどでした(笑)。
光畑:私も「それで出張に行くの?」と、荷物の少なさに驚かれることに快感を覚えるタイプなのでよくわかります(笑)。「大きなマザーバッグの中には不安が詰まっている」と、よくお話しているのですが、お母さんのなかには、外出先にないと困るからと授乳クッションや子ども用便座まで持ち歩いている方もいます。
宋:それはすごい荷物…。私には考えられへん(笑)。
光畑:海外旅行と同じだと思います。初めてのときは不安から、現地で使わないようなものまで持ち込んで荷物が多くなりがち。でも、慣れてくるとお金とパスポートさえあれば、ほとんどのものは現地調達が可能ということがわかって荷物も減ってきますよね。
宋:私も上の子が10カ月のときに、ガスケアプローチ※の研修でパリに子連れ出張しましたが、現地調達で何とかなりましたね。
※フランス人女医ベルナデット・ド・ガスケが確立した、姿勢と呼吸からペリネ(骨盤底筋群)に働きかける身体的アプローチ。
光畑:子連れ外出では、公衆の場で赤ちゃんに泣かれることを恐れるお母さんも多いと思います。でも、抱っことおっぱいさえあれば赤ちゃんは騒がない。
宋:今日の私も会場の皆さんも赤ちゃん連れですが、本当に静か。泣く前にムニャムニャとおっぱいを欲しがったタイミングで授乳すれば、赤ちゃんが大泣きすることもありません。
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ノーブラ派からモーブラ派へ!?
光畑:美玄さんには、テレビ出演や講演の際にも、よくモーハウスの授乳服を着ていただいており、ありがとうございます。
宋:「実は、このオシャレな服は胸を出さずに授乳できる服なんですよ~」と、とくに独身の人にアピールしています(笑)。子育て情報をよく知っている友だちから「授乳にはモーブラがいいらしい」と、教えてもらったのがモーハウスとの出会いでした。実際につけてみると、とにかくらくちん!
実は、モーブラを使う以前はノーブラ派でした!(会場から「えーっ!」と驚きの声)。
光畑:まさかのカミングアウトが出ましたね(笑)。
宋:ノーブラだと服のラインがヘンになります。『私の胸の位置って、こんな下なの?!』って(笑)。テレビ出演の際には、せっかく素敵な服を用意してくれたスタイリストさんにも申し訳なくて。モーブラは締めつけ感がまったくないのに、しっかり胸をホールドしてくれるのでバストラインもきれいです。
光畑:ありがとうございます。授乳服の使い心地はいかがですか?
宋:自分自身が体験して、お母さんがらくな授乳姿勢こそ母乳育児のコツだとわかりました。よくあるソラマメ型の授乳クッションは、お母さんが前掲みになって姿勢が悪くなってしまいがち。赤ちゃんに乳首を深くくわえてもらうには、お母さんが体を起こす、またはソファやイスの背もたれにもたれかかり、乳首を上に向けた姿勢のほうが適しています。会場の皆さんも授乳されながら参加されていますが、モーハウスの授乳服は、服のラインが授乳の妨げにならないのがいいですね。
光畑:モーハウスのカタログでもモデルの授乳姿勢が美しいとよくおほめいただきます。素早く自然にあげられて、裸で授乳しているような、授乳の妨げにならない構造を意識しています。
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「先輩ママの呪い」を解くカギは?
光畑:美玄さんとお会いするようになって、いろいろお話するうちに、母乳や子育てに対するスタンスがすごく近い!と、とても共感しました。
宋:「ゆるく楽しく!」ですね(笑)。そのためにも、お母さんたちも、心の余裕を持てるよう、遠慮せずにまわりのサポートを得るようにしてください。産後すぐに母子の愛着形成ができるかどうかで、その後の子育てに影響してきますが、少子化対策のなかに母親支援の目線があまりないのが気になります。
光畑:お母さんが我慢して、子どもがらく、という子育て支援は根本から違うのではないかと思います。お母さんをもっとらくに、もっと楽しくする女性支援が必要ですね。モーハウスは妊娠のパワースポットとよく言われるのですが、子連れスタッフが普通に働いている姿を見ることで子育ての不安が少なくなるのかも。
宋:私は現場に子どもを連れて行くこともあるので、うちのマネージャーは子どもあやすのがメチャうまくなりましたね(笑)。逆に不安にさせるものに、「大変」ばかりを強調する「先輩ママの呪い」があります(笑)。一足先に母親になった先輩ママたちの「歩けるようになったら大変よ~」、「小学校にあがったら大変よ~」と、子育ての「大変」な話ばかりする人たちのことです。でも、実際は楽しいことだってたくさんありますよね。
光畑:真面目な方に多いのですが、お母さんも赤ちゃんを産んだ途端に「この子のためにすべてを犠牲にしなければ」と呪いがかかる方も。私は「グッドイナフマザー」と言っていて、「頑張るのなら、頑張って肩の力を抜きましょう」とお話ししています。先輩ママの呪いを解く方法は何だと思いますか。
宋:うーん、多様性を認めることに尽きると思いますね。「ママ」とひとくくりに呼ばれる女性たちは、それまでさまざまなジャンルで生きてきました。母親になったからといって、ママ軍団の一員になったわけじゃなくて、もともとの自分に子どもがくっついただけ。他人の意見に惑わされずマイペースで、ゆるく楽しく子育てしていきましょう(笑)。
光畑:今日はありがとうございました。
プレゼントの応募は締め切りました。たくさんのご応募、ありがとうございました。