働く母乳対談!
『おっぱいとだっこ』再出版記念トークショー
テーマ:おっぱいとだっこと授乳服
2016年10月7日『おっぱいとだっこ』の再出版を記念して、
モーハウス青山ショップにてトークショーが行われました。
母乳110番 竹中恭子さん
産婦人科医 村上麻里さん
モーハウス 光畑由佳
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おっぱいとだっこと授乳服
『おっぱいとだっこ』再出版おめでとうございます。母乳育児のロングセラー本ですね。
本のことと、出版当時と今の違いをお聞きしたいです。
竹中 母乳110番という電話相談を長年やっていますが、2003年に相談内容をまとめて『おっぱいとだっこ』を出版しました。今回の再出版で、イラスト・マンガは全部書き直しました。ただ書き直せて良かったのです。
当時と母乳育児を取り巻く状況も変わりました。早期の母乳・母子接触とか母乳を勧めて安易にミルクを足さないケアが増えてきています。
光畑 ということは、いい方向になってるということ?
村上 昔に比べたらだいぶいいと言われますが。最近出た育児漫画で、入院中これをやったら絶対おっぱいは出ないよということばかり指導されてしまって、痛くて、辛くて、うつ寸前みたいに追い詰められちゃったというのがありまして、涙がでました。
母乳育児率はだんだん増えてきて、最新の調査では3か月過ぎても50パーセント以上のまま、減ってこない。それは医療者の支援レベルが上がったというよりもお母さんが母乳育児をしたいからなんです。
光畑 母乳育児したい率でいうと日本人が世界1だそうです。
村上 私の実感では希望しているお母さんは99パーセントです。だから母乳率はもっと上がるはずなんですよね。けれどもそれを邪魔をしているのが入院中の指導。
光畑 母乳育児の希望は高い、母乳率も上がっている、でもその間を埋めているのは、環境が良くなったのではなく、お母さんがすごく頑張って苦しんだ結果なんです。
村上 涙と汗で埋めているんですね。なんでこんなにおっぱいをあげるのが辛いんだろう、苦しいんだろうという話はいくらでも出てきます。おかしいでしょう。
光畑 そう、おかしい。そこがこの3人の共通の意見で、おっぱいって本来、楽するためにあるんでしょうという。竹中さんも最初はすごく大変だったんですよね。
竹中 せっかく母子同室の病院だったのに、鬱っぽくなり、赤ちゃんを拒否して二日間抱きませんでした。いじわるしているつもりはないんでしょうけど、昔の方はデリカシーがないんですよね。いきなり入ってきて、こうやって胸をつかみ「あら出てるわね」って。すっごい嫌だった。
そして、本当は哺乳類だということを忘れていた自分にも驚きました。自分の子供も怖くて、殺しちゃったらどうしようって思ったり。もう恐怖に打ち震える日々だったのに、「きちんと正座して授乳しなければなりません」と言われて(笑)。
光畑 皆さん笑うけど、そういうお母さん多いですよ。ある意味真面目だったんですよね。言われたとおりにやる。
村上 生き物相手の仕事は普通の仕事と違うんですよね。どんなに私たちが頑張っても思い通りにいかないお産なんていくらでもあるから。妊娠も母乳もそう。でも一般の皆さんはそう思ってない。
竹中 思い通りに行くと思っていたし、自分はクリアできるといううぬぼれがすごくあって。だからなおさらうまくいかないことがショックでした。
光畑 ありがちです。優秀な人ほど陥りやすい。
竹中 間違いなく頭でっかちでした。
村上 頭を働かせるとお産もおっぱいもうまくいかないです。ホルモンの流れに逆らわず、身を任せる。
光畑 頑張っちゃいけないんだけど、頑張って頭を使わないことですよね。育児のデータ、取ってましたか?
竹中 データを付ければなんらかの答えは出るって思ってました。
村上 答えは出ないよ。逆にカオスに陥るだけ。わからないというところにたどり着くだけ。
光畑 今まで自力でがんばればどうにかなっていたのが、自分ではどうにもならないという不条理を知るきっかけですよね。
村上 それを楽しめるようになると、楽になるかもしれないですね。
竹中 電話相談受けてて、今一番違うのはインターネットで膨大な情報が得られること。
光畑 それで良くなったかというと、かえって苦しくなってませんか。
村上 外来にいらっしゃる患者さんも「ネットで調べたけど、私、何とか病です」。目の前の私に聞いて欲しいと思うのですが。
竹中 恭子さんプロフィール「母乳110 番」代表。イラストレーター、ライター、まんが家と多彩な活躍の場を持つ。1992 年に育児サークル「よこはま自然育児の会」の有志らと無料電話相談ボランティア「母乳110 番」を開設。沢山の絵やまんがを盛り込み相談内容をまとめた『おっぱいとだっこ』が第9 回ライターズネットワーク大賞を受賞。現在も電話相談員をつとめる。 |
村上麻里さんプロフィール新潟大学医学部卒業。新潟大学医学部付属病院、市立甲府病院、刈羽郡総合病院、県立がんセンター新潟病院など、関連病院勤務を経て結婚後、東京都内の産婦人科クリニックで勤務。多忙な勤務医として働きながら三姉妹を母乳で育てた経験を持つ。産婦人科専門医。母乳110番顧問。 |
『おっぱいと抱っこ』 著作:竹中恭子 監修:村上麻里 出版社:PHP研究所(2016/10/28) |