どんなに忙しくても母乳での子育ては、なにごとにも代えられない経験
第1章 母乳orミルク、どっちで育てる?
どんなに忙しくても母乳での子育ては
なにごとにも代えられない経験
光畑:はじめて治部さんとお会いしたのは、女性の働き方をテーマにした出版社主催のシンポジウム。子連れで登壇されているのがとても印象的でした!そんなジャーナリストとしてご活躍される治部さんがモーハウスの授乳服を着て子育てをされていたとうかがい、なんだかご縁を感じてしまいました(笑)。
治部:そうなんです!光畑さんのことは、モーハウスのカタログを拝見して知っておりました。このような授乳服を作られたこともそうですが、会社を作ったり、子連れ出勤という働き方を提案されていることもすごいなぁと思っていたんです。今回、対談のお話をいただけてとても光栄です。
光畑:フリージャーナリストとしてご活躍される前は、出版社にお勤めされていたそうですね。そんな激務のなか出産を経験され、しかも母乳で育てられたとうかがいました。
治部:母乳で育てるか否かで、仕事に早期復職をするためにミルクがいいとおっしゃる方もいますが、私は母乳をおすすめしたいですね。実際に産んでみると、自分ももともと動物ですし(笑)、健康的。乳腺炎になるリスクも下がります。
光畑:なるほど。私の場合、母乳のほうが仕事をする上でラクだったなという印象なのですが、治部さんはどうでしたか?
治部:うまく出れば、母乳育児はラクだと思います。上の子は産後2か月、下の子は産まれたときから卒乳まで完全母乳でした。雑誌編集の仕事をしており、締め切り前は深夜帰宅だったりと激務に追われる毎日。そんな仕事一辺倒だった私のような女性でも、母乳をあげることで、自然と子どもとコミュニケーションがとれたことはよかったですね。くっつく口実といいますか、自然にそうなるというか……そこで愛着が生まれ、母親であることに慣れていく時間を授乳で確保していたとも言えるかもしれません。それから、子どもが不安で泣いたりするときは、おむつかおっぱいのどちらかなので、育児のスキルがまったくなかった上の子の時には特に、「母乳」があれば安心する、というのはありました。夜泣きしたときに、おっぱいを寝ぼけながら寝っ転がったままあげて、疲れもあってかそのまま寝ちゃうなんてこともありました(笑)。
光畑:あはは!でもそんなラクさも母乳ならではですよね(笑)。
治部:最初の出産のとき母乳が開通していなくて、吸わせ方もわからない、と悩みましたが、出産した病院で授乳指導があったんです。まるでスポーツのフォームを教わる感じ(笑)。そのおかげで出は順調になり、その後はスムーズ。二人目の子はミルクアレルギーということもあって母乳が絶対でした。もう慣れたもので、片方で母乳をあげながら、もう片方は搾乳してストックしたりしていましたね。母乳は軌道に乗るまでが大変。今振り返ると病院のサポートがありがたかったなと思います。知人に母乳が出づらいお母さんがいたのですが、聞くとそういうサポートはなかったと言います。
光畑:環境と病院の両方が大事なんでしょうね。子どもと離れ離れになってしまっては、あげる機会が少なくなるから出にくくなってしまう、指導もないとわからない。何よりも、「私はこういう体質なんだ」って母親が自信を失ってしまうということが一番もったいないです。
治部:それから、仕事という面で見ると復職=断乳と思っている方も多いように思います。仕事の形態によって搾乳する時間がないなど色々ありますが、授乳しながら働ける環境があるといいなと思いますね。会社で子どもがいる人とよく話すんですよ、「私たち、ただの炊飯器だよね」って(笑)。本当にそれくらいの感覚なんです。
光畑:そうですよね。授乳は当たり前のこと。男性を含め、周りの人がもっと普通に扱ってくれたら働く女性ももっとラクになるんだろうな、と思います(笑)。
第2章 HAPPY授乳ライフ
「誰にも気づかれない!勝った!!」
自由を獲得した授乳ライフ
光畑:育児中、モーハウスの服を着てくださっていたそうですね。
治部:だいぶお世話になりました(笑)!第一子出産後2か月くらいの頃、WEBでモーハウスを知ったのですが、着はじめて以来、もう世界が変わったように色々なことがラクになったのを覚えています。それから、光畑さんの電車のなかで授乳したというエピソードを見て、「これはすごい!」と衝撃を受けたのと同時に、勇気をもらった気がしました。それでモーハウスで購入した服を着て、私も早速バスのなかで授乳してみたんです。最初はドキドキしました。夫と2人だったのですが、向かいに人が座ってないことを確認してもらって、思い切ってやってみたんです。そうしたら、本当に誰にもバレなくて(笑)! 「やった、気づかれない! 私たちの勝ちだね!」って夫と笑いました。まさに、自由を獲得した感覚ですよね。それ以来、誰からも気づかれず、どこでもじゃんじゃん授乳できるようになりました(笑)。
光畑:嬉しいですね!その感覚こそ大事だと思うんですよ。そう言うと不謹慎なイメージがあるかもしれませんが、授乳はそんな聖域でもないし、特別なことなんかじゃない。治部さんがおっしゃった、自由を獲得した感覚は、まさに私が味わった体験と同じです。
治部:それまでは、朝起きて、授乳とおむつ替えに忙殺されて気づいたら夕方。外で泣かれることが不安で、泣かない状態にして待っているとそれだけで一日が暮れてしまうこともありました。それが授乳服を着るようになってから、真っ昼間に出かけられる、電車に乗れる、とまるで生活が一変!行動できるか、できないか、それが本当に大きいんだなと実感しました!それに意外にどこへ行ってもみなさん優しい(笑)、子連れでも温かい目で見てくれるんですよ。
光畑:子連れで出かけるときは、周りの人に対して会話のキャッチボールをするといいですよ。あやして余計泣いたらどうしようって不安になる前に、お母さんからサインを投げかけちゃうんです。以前、新幹線で乗り合わせた子連れのお母さんがいたのですが、赤ちゃんをこちらに向けて座るんですよね。こちらはもう「可愛いですね、何か月ですか?」と声をかけざるを得ないじゃないですか(笑)。するとお母さんは「待ってました!」と言わんばかりに話しかけてきて、赤ちゃんも上機嫌。実はモーハウスのスタッフもそういったお母さんばかりで、すごくフレンドリーなんです。子どもも慣れていて、そうすると子連れでのお出かけが全然怖くなくなるんです。新幹線のお母さんはもう、上級者(笑)!
治部:うちの子は、「外国の人って子ども好きだよね!」って言ったことがあるのですが、確かに外国の方は目が合うと「ハーイ!」って声をかけてくれますよね。日本人、特に男性は、シャイだからそういったことは難しいかもしれませんが、笑顔で応えてくれるだけでも子連れのお母さんにとっては嬉しいんです。
光畑:お母さんから心を開けば、周りの人も心を開いてくれる。授乳服を着て、子どもとのお出かけを思いっきり楽しんでもらいたいですね!
第3章 男女平等子育てに異議あり
夫婦子育てのコツは
「できるほうがやればいい」
光畑:以前、治部さんとイベントでお会いしたとき、一緒にいらっしゃったご主人がとても育児に熱心だったのが印象的でした。
治部:産まれる前は全然そんなことなかったんですよ。今思うと、きっかけは出産の立ち合いだったような気がします。私が「疲れた~!」とぐったりする一方で、夫は「母性」に目覚めたようでしたから(笑)。産まれた瞬間にスイッチが入ったんでしょうね。
光畑:それにしても、治部さんご夫妻は役割分担がとても上手く機能しているように見えます。最初から男女の分担が解放されているような(笑)。
治部:夫が26歳のとき、博士号を取得しにアメリカへ留学したのですが、そのときの指導教官が2人の子どもをもつ女性だったことが大きく影響していると思います。彼女を見るまでは夫のなかでは、「幸せ=仕事の成功」だったのが、「幸せ=子どもといる家庭」というイメージに変わったのかもしれません。クリスマスや感謝祭でその彼女宅に招かれるたびに、子どもの寝かしつけなど育児をしている彼女の夫の姿を見ていたようです。その動きが参考になっているのでしょう。
光畑:なるほど!治部さんご夫妻がナチュラルに分担されているのには、そういうロールモデルがあったのかと、しっくりきました。ちなみに、治部さんはアメリカの家庭における子育て論を展開していますが、参考にするべきことはありますか?
治部:まず夫の役割が相当に違うと思いますね。日本でいういわゆる「イクメン」が、アメリカでは当たり前なんです。そもそも、このジャンルに興味をもったのも、仕事で企業の女性活用についての取材をしていて、管理職の女性が言っていたことがきっかけ。「会社は色々と育児支援をしてくれるけど、夫が何もできない」と。それで私も子どもに対してポジティブなイメージと自助努力が徹底しているアメリカへ留学しました。見直すべきは、子育てに対する夫の姿勢。すごくシンプルなことです。たとえば、妻が授乳しているときに、夫は部屋を片付ける、ご飯を作る。物理的に母親にしかできないこと以外を、当たり前にやってくれる、それだけでいいんです。私の夫は、母乳が出やすいように野菜中心の食事を作ってくれましたし、ぐずったらおむつを替えてくれたりなど、そういった自分ができることをやってくれていました。大事なのは、トータルで平等だなと思えることです。
光畑:極端な例では、母乳を搾乳機でわざわざ取って、半分ボトルで飲ませて夫と平等に育児をするという人もいますが、そうではないんですよね。もっと自然な形でできることがある。
治部:子育ては「手伝う」のではなく「できるほうがやる」、そういうリベラルな感覚をそのときに身につけたんだと思います。保育園のお迎えも、私が仕事で忙しいせいもあって夫が行くことが多く、そのためか子どもは自然に夫になついてしまって(笑)。
光畑:なるほど、早期接触ですね!よく私のセミナーでもインプリンティング(=刷り込み)に例えてお話するんですけど、卵からかえって最初に見たものを親と思ってついていく理論。おもしろいですよね。母乳が出るからといってママべったりにならない、こういう効果も期待できるんですね。
治部:日本の女性は、企業や政府に求めることは多いけど、一番身近なはずの夫に求める部分が極端に少ないのは、昔ながらの文化のせいか、なかなか改善できないところですね。
光畑:たしかにそうですね。日本の男性だけじゃなく、女性のほうも意識改革が必要なのかもしれませんね。それが自然とできてしまう治部さんご夫妻は、これから日本の夫婦が目指すべきまさにロールモデルですね。
第4章 ワーキングマザーに必要なモノ
働きながらでも子育ては楽しい!
必要なのは心の通ったケアにあり
光畑:治部さんは、仕事、出産、育児など、「女性のワークライフバランス」がご専門ですが、今後「働く女性」のあり方についてどう思われますか?
治部:リーマンショック以降、女性は出産しても働くことが当然という意識になりましたね。特に若い人は夫ひとりの働きだけでやっていくことへの不安もある。それと同時に保育園の入りにくさもクローズアップされて、ワーキングマザーの子ども=待機児童といったイメージが先行するようになってしまいました。そのせいか出産や育児に対して、ものすごく大変なこと、と煽られているような、マイナスな雰囲気にメディアで繰り返し取り上げられてしまっているのが気になります。実際に産んでみると、子どもって本当に可愛くて、子育てもすごく楽しくてポジティブなことなのになと、それがとても残念なんです。
光畑:本当にそうですね。最近特に仕事と子育てに関する記事を様々な媒体で目にしますが、大変さのほうが前に出てしまっている。最初の思い込みって大きいですよね。楽しく子育てをしているほうが、気持ちの部分からもっと自由になれるのにな、と思いますね。そんなに大変さを煽ってどうする?みたいな(笑)。社会に対してはありですけど、お母さんに言うことはないのに、って常に思うことです。
治部:女性が働くためのバックアップも、どこか理想と現実で合っていない。前にセミナーで出会ったお母さんが、「そもそもなぜ、働く=子どもと離れることになるんだろう」とおっしゃっていたのが印象的で、本当にそうだなと思ったんです。
光畑:女性の働きやすい環境づくりとして24時間保育なんていう発想があるけど、それが本当に私たちが望むことなのかと思います。
治部:24時間子どもを預けたい母親なんていない。もっと子どもとの時間だって大切にしたいですしね。今の社会は、例えば、正社員で残業するかパートで賃金が安いか、といった極端な選択肢しかない。正社員でもパートでもフレキシブルな仕事の裁量や子どもとの自由な時間など、必要とされているのはもっと中間的なサポート。求められるのは働き方の多様化です。
光畑:女性の働き方って未だに、保育園に入れてバリバリ働くといったイメージが先行していますよね。
治部:今、働く女性で子どもが0歳児から復帰する人も少なくない。まさに授乳中ですよね。そんな働くお母さんへの復職祝いに、モーハウスの授乳服はぴったりだと思うんです。企業によっては、ベビーシッター補助券とかもありますが、それだと「子どもと離れて仕事を頑張ってね」と、あくまで子どもを置いて仕事に専念してと言わんばかりですよね。授乳服なら「これを着て子育てしながら仕事も頑張ってね」と、子どもがいることを受け入れてくれる感じがするんです。もっと言えば妊娠中に、社会政策として母子手帳と一緒に出産祝いとして授乳服をプレゼントしてもいいですよね。カタログで選べても嬉しいですし。そうすることで、きっと産後クライシスとか、育児ノイローゼにもなりにくくなりますよ。
光畑:それはいいアイデアですね。私も授乳服は産後ケアにすらなると思っているので、ぜひ提言していただきたい(笑)。これまでにも、授乳服をプレゼントされた方から「これを着ることで救われました」とおっしゃっていただいたことがあります。お母さんは産後自分のものになかなか手が出せないけれど、人から贈られることで、「社会とつながっていいんだ。」と認められた気持ちになるのかもしれませんね。
治部:それでも女性の働きやすい環境は待っているだけではダメ。自分からアクションを起こすことも大切です。
光畑:働きやすさを考える意味では、自分の生活を中心に考えることも一つの選択。小さくても自分で起業するのも一つの選択ですし、まだまだ特殊ですがモーハウスのような子連れ出勤という形もまた一つの選択。働き方は決して一つじゃないということですね。今回の治部さんとの対談を通して、働く女性同士、また母親同士、色々な共通点が発見でき、嬉しかったです。ご自身の体験談から夫婦間の子育て論、働く女性のあり方など、色々と楽しいお話をありがとうございました。
*プロフィール*
治部れんげ
1974年生まれ。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で経済誌記者として活躍し、現在はフリーの経済ジャーナリスト。ダイバーシティ・マネジメント、人材育成(スキルアップ)、女性のキャリア形成、男性の家庭参加、ワーク・ライフ・バランス、女性と政治などを取材、執筆。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。著書にアメリカの共働き子育て事情を記した『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)など。最近の連載/執筆記事に、「日経DUAL」連載の「怒れ!30代」シリーズ、Yahoo!ニュース個人の「治部れんげ 次世代中心主義」など。家族は大学の同級生だった夫と息子1人、娘1人。